山種美術館で開催中の福田平八郎と日本画モダン。
5/26から始まっていて、先日伺ってきたばかり。
(関連記事:
福田平八郎と日本画モダン(山種美術館))
「日本画モダンとは?―福田平八郎のセンス」と題された講演会を拝聴してきました。
講師はご存知、山下裕二先生。
山種美術館の顧問であり、明治学院大学教授でいらっしゃいます。
福田平八郎は1974年に亡くなり、その年から翌年にかけて福田平八郎遺作展が開催されたのだそう。
東京都近代美術館、京都市美術館と巡回していて、山下先生は京都で見たのだそう。
それは16歳の時だったという。
初めて自分の意志でこれを見たいと思って行かれたのがこの展覧会だったのだそう。
ポスターの「雨」を見て行ってみようと思ったのだとか。
「漣」を見て、「こんなかっこいい日本画があるんだ!」と。
ちなみに山下先生は当時、出身の広島からほとんど出たことがなく展覧会もあまり見るような機会もなかったのだとか。
だからこの福田平八郎には相当な思い入れがあることに納得。
今回、「雨」と「漣」が借りられて前期後期の目玉とすることが出来た。
福田平八郎のみならず、大正末から昭和初期にかけて登場したモダンなセンスを持った日本画も併せて紹介。
福田平八郎「桃と女」
一番早い時期の作品。顔と、手に持った桃の陰影が特徴的。
第10回文展で落選。
実はこの第9回文展に入賞したのが土田麦僊の大原女。
おそらく麦僊の真似と思われて落ちたのではないだろうか?
大原女は真ん中に樹木を持ってくる構図は智積院の長谷川久蔵が描いた壁画を意識しているのでは?
そして、人物はゴーギャンを意識している。
よく見ると足の部分に下書きが残っている。動きの表現かもしれない。
山下先生曰く、「いただけない。ボクなら落とすかも」とも。
福田平八郎「牡丹」
不思議な妖しさ。葉と花を細密に描き、周りの陰影がひきたてている。
南宋画の影響。
おそらく高桐院が京博に寄託している中国絵画の牡丹の絵を参照しているのではないだろうか?と。
また、速水御舟も「向日葵」で細密描写+陰影で描いていた。
落款の極細の痩金体が美しい。
この向日葵、葉の虫食いがあるが若冲の影響では無いのだろうと。
大正時代、若冲の認知度は低い。
ワシントンナショナルギャラリーでの動植彩絵は大人気。入場制限がかかるほど。ニューヨークタイムスも大絶賛!
ここまで評価の変わりようは若冲の他にはないとのこと。
さて、ここからは本展とは少し離れて陰影描写にまつわる絵画をスライドで見せて頂きました。
速水御舟の京の舞妓。細密に描いている。絞りの着物、畳の目までこと細かに描いている。異常な描き込み。そして壺の陶器の質感。
舞妓さんの顔のまわりは怖いくらいの陰影。
この不気味さとリアリズムの流行りのおおもとは岸田劉生。
油絵なのに彼が日本画家に与えた影響は大きい。
岸田劉生の麗子像は遡ると実はモナリザ。手の表情がモナリザ的。
そして舞妓にまつわる陰影の絵画として、岡本神草、甲斐庄楠音の舞妓の絵を紹介。
スタートは濃密だったものの洗練された表現へと向かう平八郎。
福田平八郎「春」
すっきりとした切れ味の作風に。
波の線は実はあっさりとしているようで神経が行き届いている。
目のうんと詰まった絹に、筆の走りの緊張感。
平八郎の落款がそっけないけど好感が持てるとのこと。
福田平八郎「漣」
16歳の山下先生が出会ってしまった衝撃作。
牡丹と同じ作者とは思えない。
つまり、作風はここまで変わるということ。画家のスタイルは幅広く見る必要があるのではないか。
さて、漣。
現在はかっこわるい仮の木の額がついているがこれは貸出元の大阪市からの指定によるもの。
この木の額を外すと漆の黒塗りになってるのだそう。
状態から見ておそらく個人蔵の時に実用として使用されていたのだろうと。
前で寝っ転がって酒が飲みたい。日本の絵というのは本来はそういうもの。
本来なら見えるはずの10センチの箔目がそれほどはっきりとは見えない。
そもそも銀箔を貼った屏風を発注していたのが金箔で来てしまい、金箔の上に銀箔を貼ったと平八郎は言っている。
ところが銀箔であればやけてしまうはず。
ということでおそらく上のは銀ではなくプラチナ。
平八郎は箔と言っているがよおく見てみると泥を塗っているのだそう。
というわけで金箔の上にプラチナ泥を塗っていたというのがどうも真相のよう。
そして、続いて映写されたスライドにびっくり。
岡本東洋の写真。
タイトルも「漣」。
平八郎の「漣」にとてもよく似ている!
なんと平八郎は東洋と付き合いがあり、この写真を依頼していたよう。
このあたりはこの中川馨「動物・植物写真と日本近代絵画」に詳細が書かれています。
動物・植物写真と日本近代絵画中川 馨思文閣出版
画家にとって作品制作に写真は重要なファクター。
日本画家と写真の使い方。
田中一村は写真を撮っていたし、シルエットの葉などは逆光表現を初めて日本画に取り入れている。
福田平八郎「花菖蒲」
やはり光琳を意識しているだろう。
根津の杜若図屏風は実は保存状態がよくない。
八橋図屏風はメトロポリタンではガラスケースなしで展示されている。
福田平八郎「遊鮎」
細かいところまで繊細に描いている。軸装が上品。
もっとも欲しくなった絵。
福田平八郎「青柿」
葉を群青で描くという発想はなかなかない。
夏の陽に照らされた感じが出ている大胆な色使い。
色の変換が強い視覚効果となる。
今、パソコンで出来ることを頭の中で出来た人ではないか。
福田平八郎「筍」
グリーンを少し出すことで強い色彩効果。
バックの葉は輪郭線のみでデザイン的。と思いきや、実はこのラインが薄い墨に胡粉を加えて少したらしこみ的な効果が出ている。
制作時に薮蚊に刺されて大変だったよう。
この「筍」の切手はショップで販売中!
福田平八郎「雨」
16歳の時に買ったカタログの表紙。
原弘による国立近代美術館のデザインワーク。おそらく最後に近い仕事。
この表紙は「雨」をノートリで使用。
空いたスペースに文字を入れてる。最大のオマージュ。敬意が払われている。
まるで古びていない。
というわけで今回のチラシも「雨」。
作品のほうはというと、寄るとかなり細かい。
墨で雨粒の跡、濃淡を変えている。胡粉による白いのもある。
視覚的なトリミング。時間の表現。
雨の降り出す時の匂いまでかんじさせる。
かっこいい。
俵屋宗達[絵]、本阿弥光悦[書]「四季草花下絵和歌短冊帖」
もともとは屏風に貼られていたもの。
金と銀、色数の少なさから得られる効果。
このバリエーション的な宗達の鶴いっぱいの画像をスクリーンに。
その後に加山又造「千羽鶴」。山種美術館の入り口正面に飾られている陶版。
こうやって画像で続けて見せて頂けると流れがよく分かります。
さて、ここで「漣」のシンプルに匹敵するような作品が過去になかったかと山下先生。
そこで出てきたのが、俵屋宗達「蔦の細道図屏風」。
金地に緑一色。
そして歌の書の烏丸光広の落款が人のような形。まるで緑の上を歩く人みたい。
川端龍子「真珠」
ワカメの上に座っちゃってるめっちゃ変な絵。
フレスコを意識。絹に描かれている。
龍子はたまにびっくりするくらいにおバカな絵を描く。とてもふり幅が大きい。
落合朗風「エバ」
蛇の口から何か出ちゃってる。変な日本画。
ゴーギャンとルソーの影響。
落合朗風の追悼文をフジタ(藤田嗣治)が書いていた。
前田青邨「鶺鴒」
こんな視覚は人間にはない。
テレビ画像?たまたま青邨のお嬢さんにお尋ねしたところ、青邨は晩年テレビをよく見ていたのだとか。特に大河ドラマが好きだったのだそう。
さて、今回の作品についての解説が修了したところで、フォトコンテストの作例としての山下先生の写真が登場。
曲線が印象的な石畳みたいなのはジョー・プライスさんの家の外壁とは。さすがですね。
フォトコンテストについてはこちら↓
「福田平八郎と日本画モダン」展の関連企画 フォトコンテスト開催のお知らせ
http://www.yamatane-museum.jp/2012/05/photocontest.html.html
こちらは今回のミニ図録。内容ぎゅっとつまってます。
福田平八郎と日本画モダン
前期展示:5/26(土)〜6/24(日)
後期展示:6/26(火)〜7/22(日)
半券割引サービスのお知らせ(2012年05月26日)
【特別展】生誕120年 福田平八郎と日本画モダン」展の前期(5/26〜6/24)にご来館された方は、本展チケットの半券を後期展(6/26〜7/22)にお持ちになると後期展は一般1000円、学生700円になります。是非ご活用ください。
(半券一枚につきお一人様一回限り)