「靉嘔 ふたたびの虹のかなたに」を見に東京都現代美術館に行ってきました。
初めて版画でみたのはルソーの森の考える虹猿など数点。
(関連記事:カラフルな虹色!靉嘔(AY-O あいおう))
今回、まとまって見られるとのことで期待してたもののなかなか足を運べず終盤になんとか滑り込み。
前期展示を見逃してしまったことを後悔。
それにしてもボリューム満点の展示でした。
まずは初期の作品から。
もちろんまだ虹のイメージはない。
☆田園
大好きな作品。
その後の虹のシリーズにも見られる昔の3DCGのシンプルな人体モデリングのような人物。
ものすごい数の男女が腕を組んで並んでる。
画面下に書かれたこの一文にやられる。
「食う為に生きる為に耕す 父 母 兄 弟 姉 妹 におくる」
純粋な人間賛歌にひどく打たれた。
初期の一部の作品の特徴は、前述したシンプルな人物の構成と、水色、黄色、濃い肌色の組み合わせ。
ところがこの他にももっと激しく表情の描かれた人物も描いてて、でも写実とは真逆のベクトル。
かなり作風を模索してたのがわかります。
正直、どれも悪くないしそのまま進めていったとしても面白いものだったのではないかと思ってしまうくらい。
その後、渡米後のシリーズ。
なんだか英九が晩年ハマっていったかのような点描やらアクションペインティングなど。
立体の作品もあって見ている側の混乱は最大に。
その渡米時に手がけたオレンジボックスなる作品。
ちょこっとだけ写真でわかるのだけど展示室の中に詰め込んだ膨大なウレタンの触感を楽しむという作品。
ここからの流れで出来上がるフィンガーボックスは納得。
フィンガーボックスはアタッシュケースに入った立方体の木製のブロックみたいなもの。真ん中に穴が開けられていて指を入れてその中の触感を確認するという作品。
芸術作品の大半が視覚を中心にしたものに対してこの触覚を持ってきた作品というのはそもそも絶対数が少なくそれ専門の作家になってしまうこともあり得たのでは?
そして、虹のシリーズ。
これを見るとやはりこれが一番好きだなあと思う。
☆田園 点描
タイトルに驚く。
そのまんま。点描で描かれたシリーズの延長であり、虹の構成はよく知られたストライプのものとは異なる。
でも、これが虹のシリーズのスタート。
なんとも意外だなあと。もっとストライプストライプしてるかと思ってたので。
☆ヴィーナス・オブ・ミロ
バリエーションとして居並ぶ様を虹に見たててる。
ヴィーナスはガムテープ、アクリル、ウレタン、木、ペイントの虹、電飾、唐草で表現されている。
立体だし大きさもあり見栄えする。
☆アダムとイヴ
これを見るとほっとする。
そう、これこれ。このレインボーが見たかった。
股間を隠す葉っぱも丁寧に虹色で描かれてる。
☆絵物語 ミズ・アンド・ミスター・レインボー
これはなんと10枚組み。宇宙人みたいのと、男と女と。
みんななかよし。大切なこと。
☆火山
噴火して山頂から吹き出してる煙の軌跡が面白い。もちろん虹色。
☆レインボーナイト
愛し合う男女。残存のように横にずれて色が虹のトーンでかわってく。
視線を水平に泳がせた時の気持ちよさ。二人は口づけを交わし、男は女の胸をもんでいる。
ってこう書くとものすごくいやらしいのだけど虹色なので生っぽくはならない。
さらに互いの足はお互いを超越し越境し虹色の残像を残してく。
今回見たなかで一番よいなあと思いました。
☆レインボー・レイン
薄めの虹のストライプ。
その絵の具が垂直に垂れていく。
なるほどこういう展開もあり。
☆般若心経
なんと色とりどりの漢字で書かれた般若心経。
ほかに真っ黒なのもあっておそらくすべての文字を上書きしたと思われる。
☆サンシャイン
レインボーのストライプの間にひとつづつ白いラインを挿入していく。
となりにはレインボーのストライプのみの作品があり比較できる。
このタイトルに納得。少し構成を変化させてこうなるのだなあ。
☆蛇使いA
ご存知、ルソーの蛇使いを虹色で構成した作品。となりにはもっとオレンジが強めの別バージョン、蛇使いBも展示されている。
面白いのはのっぺり単色で描かれる虹色各色なのだけども、この絵にはそうではないいろが入ってる。
AもBも月だけはグレーで色を特に均一にもしていない。むしろ、その灰色をバラつかせている。
続くオリンピックのシリーズは圧巻。
動きのあるポーズと色彩がうわっと飛び出してくるかのよう。とにかくエネルギッシュ。
☆浦島・トゥー・ブラックホール
こちらも虹色。
亀に乗った浦島太郎がブラックホールに吸い込まれてく。
空間の歪みが虹色だとよいなあと。
さらに作品の下には木の箱が。
なんと玉手箱って書かれてる。
「靉嘔 指箱一式」
なるほどフィンガーボックスが入っているみたいです。
☆ビッグ・ティッツ
まんまおっぱい。でも虹はストライプではなく周囲を囲む線となる。
☆あにめいてっど いっくに
水平に置いたキャンバスの上から絵の具を垂らしたシリーズ。
ちょっとポロックを連想したのだけどまるで異なる。間があいて地の白が大きく見えるからなのだろう。
色とりどりのフォルムは独立しててかつ互いに響いてる。
そして、この後は版画のコーナー。
版画になるとオリジナルの作品のイメージとはずれてくるのだけど、靉嘔の場合にはそれがほとんど感じられない。
線と色の再現が可能であればこのレインボーの作品たちは版画で何ら問題ない。
これは最強の武器だと思う。
☆マウント・フジ 春信
浮世絵の虹色版。
目を見て一発で春信だと確信。
マウントはきっと山じゃないほうの意味をかけてあり。
☆レインボー北斎
春画です。でも画面が分割されていてピースの組み替えが可能。
肝心の部分のピースは別のところにしかも向きを90度変えている。
隠してたらすごく嫌になるがこういうふうに回避するのは技ありだなあと。
版画の屏風もあったのですが落ち着かないなあと。
あと、セクシャルなイメージのが多いのだけど虹色に溶けてしまって生っぽさがないのはすごいなあと。
☆アイオー・ゴット・ドランク・バイ・ザ・レインボー
なんと写真ベースの版画。飲んだくれ(多分、靉嘔?)とグラス。
主にそのグラスを虹色に色を乗せてる。でも7色でなく3色くらい。
よいどれていい感じにほどけた感になんとも親近感を覚えますね。
☆オーバー・ザ・レインボー
曲線で分断されてるのはフィルム。
大きさがでかいのでスケール感が狂ってしまいます。
パーフォレーションも入ってて確かにフィルム。
状態はかなりひどくひび割れしててボロボロ。
見事なマテリアル感!
タイトルにそった名前のこの作品がラストにあることは重要です。
虹の向こう側には死が待ち受けている。
5/6まで。
版画芸術 107 靉嘔クリエーター情報なし阿部出版