青い日記帳×レーピン展『ブロガー・スペシャルナイト』にお邪魔してきました。
登壇者は山下裕二氏(明治学院大学教授)、籾山昌夫氏(神奈川県立近代美術館 主任学芸員)。
そして、ナビゲーターはいつもお世話になっている青い日記帳のTakさんこと中村剛士氏。
お三方登場を拍手で迎えます。
※なお会場の撮影については了解を得ています。
山下先生、今日は日本美術応援団ではなくロシア美術応援団とのこと。
レーピン好きだし、自身で企画された白隠展をやるのでこれは断れないなあとのこと。
レーピンの作品は日本にはほとんどないのだそう。
横浜美術館にあるくらいなのだそう。そこまでレアだったとは初めて知りました〜。
籾山さんはもう四半世紀、ロシア絵画を研究されているのだそう。
今回の展示の監修をされている日本でのレーピン研究の第一人者。
(なかなかお目にかかれないレーピンを他に日本で研究されている方がどれほどいるのだろうか木になりました)
過去に来日したレーピン作品の展覧会について。
1970年代半ばに銀座の月光荘のつながりで日本橋の三越で30点のレーピン作品を展示したとのこと。
1990年代には小樽にロシア美術館が作られ今回展示されていない作品があったのだとか。
(今はもう無いようですね)
90年代には都美術館でロシア絵画の展示が催されたのだそう。
この時は今回も展示されている「懺悔の前」が出ていたのだそう。
記憶を頼りにすらすらと過去の展覧会について話すTakさんに山下先生が「よく覚えているねえ」と。
ブログに書いて確認するから記憶として定着するのではとも。
レーピンは実はネームバリューがあり、日本で言うなら横山大観のようなと言われたあとで、いや雪舟かなあと山下先生。
面白いのはレーピンの生年、没年を和年号でおっしゃられたこと!
レーピンは天保15年生まれ、昭和5年に没してて、時期としては富岡鉄斎が近く6〜7年先なのだとか。
こういうトークの広がりに持って来れるのは日本美術が専門ながらも小さな画廊までとにかく見まくってる山下先生のすごいところ。
キャベツは由一の鮭みたいなもの。なるほど〜。
籾山さんもこの一点だけどうしようか迷った挙句、図録では畑と合わせるしかないなあと。
レーピンの晩年はロシア革命のため、今もよくわからないのだとか。
大正7年にレーピンが餓死したというデマが流れたことがあり土井晩翠が詩を詠んだのだそう。
(どいばんせいとメモしてたがどいばんすいが正解)
トルストイがブームになっていて肖像画を描いていたレーピンは知られていたとのこと。
山下先生曰く、どうしてロシアの美術だけ認知度が低いのか?
音楽や文学に比べると美術は再現性が低いからではないかとのこと。
あとレーピンの絵は上流階級のひとが買ってしまい、ロシアの国外にはほとんどないからだとも。
アメリカとロシアの冷戦もあり、レーピンは政策としてこき下ろされていたよう。
「20世紀に作られた美術史はアメリカが捏造してるんだよね」と山下先生。
そうしたこともあり、レーピンは埋没してしまったのではないかと。
この会場で自分の眼でその凄さを見て欲しいと。
レーピンはもともと絵が上手。この才能に加えて構想を練る労力の掛け方が半端ない。
フジタはもともとは下手。
現代の作家でもともと上手なのは山口晃とも!
(こういう結び付けが出来ることが素晴らしい)
松園は努力型とも。
山下先生の「王女ソフィア、これポスターにすればよかったのに」に思わず笑いました。(右の絵)
メインのビジュアルの「休息ー妻ヴェーラ・レーピナの肖像」はそのタイトル通りにレーピンの奥さんを描いている。
実はレーピンの弟がこの奥さんの姐と結婚しているとのこと。
かなり若い。たぶん20代前半。
X線で調査したところ目が開いていたことが判明。
恐らく制作途中で寝ているように変更されたのだろう。
右手をアゴにやるポーズは確かに寝ているにしては不自然。
これは伝統的に西洋美術で悲しみを現すポーズなのだそう。
そして右腕には黒い腕章をしているように見える。この腕章は下絵にも存在するのだそう。
リーフレットにも登場の「思いがけなく」
描かれているのは革命家。
レンブラントの放蕩息子の帰還のイメージも。
この絵の別のバージョンには女性がカバンを持って入ってくるものもあるのだとか。
実はレーピンはモスクワには5年しか居なかった。
むしろ、サントペテルブルグに長く住んでいて、美術学校の校長も勤めていた。
「1581年11月16日のイワン雷帝とその息子イワン」
※実際に会場に展示されているのはこの作品の習作になります。
気性が荒く、息子を杖で殴り殺してしまった絵。
移動美術館で展示されており、その当の皇帝が見に来たのだそう。
首都以外で飾らないでくれと頼んだが、結局、展示してしまう。
取り外せという命令が下ったが、友人がとりなして結局は飾って構わないということに落ち着いた。
実はこれ、皇帝の寛容さをアピールする政策なのだそう。
絵画だけ見ていたら分からないエピソード。
社会の中でそういった仕掛けに用いられていようとは。
ここで山下先生からの依頼で低い音量で流れてたBGM「展覧会の絵」のボリュームをUP。
会場に展示されている「作曲家モデスト・ムソルグスキーの肖像」(右の絵)
彼こそがこの「展覧会の絵」の作曲家。
そして「ウラジーミル・スターソフの肖像」のスターソフ。彼に捧げてこの曲は作曲されたとのこと。
このあたりの人物相関がわからなかったのであとで調べてみたところ、このスターソフの紹介でムソルグスキーがヴィクトル・ハルトマンの親友となったのだそう。
このハルトマンの展覧会の絵に触発されて「展覧会の絵」を作曲したのだとのこと。
ほんと聞いてて心地よい曲。まさか美術館でこの曲を聞ける機会があろうとは。
そして時間はあっという間に過ぎて、最後にまとめ。
各自、好きな作品を挙げることに。(※以下のタイトルは正式なものではありません。極力、話の中で紹介された名前で書いてます。ご了解ください)
まずは山下先生から。
・ピアニストのおばちゃんの絵(左の絵)
高飛車なところが好き。
二の腕がたまらない!基本薄塗りなのにここだけ厚塗りになっている。うにょ〜って。
ポスターこっちにしたらきっと中年男性の人気が。。。w
・細長い夫人の肖像(左の絵)
こちらも上から目線。
(山下先生の好みが分かりました)
プロポーションが百済観音ですね。眉毛濃いいし。
・キャベツ
無意味な線好き。
・フィレンツェの自画像
薄塗りでキャンバスの地が見える。
指示体と絵の具の一体感が好き。
あと、この会場の作品、全体として額がいやらしくないと。
額はオリジナルのもののよう。
続いて、Takさん
・革命家が入ってくる絵
六人の表情がいい。
山下先生がTakさんに向かって「室内好き?」
なるほど、Takさんの大好きなフェルメールの作品は室内を描いたのが多いですよね。
女の子の上に七人目の顔が!?
心霊写真ちっくな新説が登場。
そして、トリは籾山さん。
・少女を描いた小さなデッサン画
なんとも以外な回答かと思いましたが理由を聞いて納得。
鉛筆のぼけで描いてる部分。
頬のところの描写で技量が分かる。
油彩だけでなくやっぱり上手いってことですよね。
・農家の中庭
崩れた屋根の空いたところから鳥が覗いてるところがいい。
山下先生「駄作が少ないでしょ」
籾山さん「少ないですねえ」
そして、ラストは告知です。
12/22から白隠展がスタート。
なんと白隠の作品には国宝、重文がひとつもないのだそう!
五百羅漢もそうでしたが見れば分かるその凄さ。
なんとケースも全部このために作っててインスタレーション的な展示になるそうです。
楽しみ!
Bunkamura ザ・ミュージアムでのレーピン展は10/8まで。
そして、以下のスケジュールで巡回の予定です。
浜松市美術館
2012年10月16日(火)〜12月24日(月・祝)
姫路市立美術館
2013年2月16日(土)〜3月20日(土)
神奈川県立近代美術館 葉山館
2013年4月6日(土)〜5月26日(日)
山下先生、籾山さん、Takさんありがとうございました!